はじめての批判的談話研究 by Kaede

1.  はじめに

3年生の春に、大学のゼミ紹介の動画を視聴して、初めて「批判的談話研究」という研究分野があることを知った。紹介動画では、「SNS分析」や「ラジオ分析」といった、私たちが日常的に触れている「メディア」を中心とした研究について語られ、文系大学生の研究題材は「文学」であると、固定概念を持っていた私は興味を抱いた。また、「研究」という言葉に堅い印象を抱いていた私にとって、自身が普段使用している“Twitter”や、“Instagram”といったサービスが、研究対象になる事への衝撃が大きく、心を惹かれた。これらの理由から、研究したいことが不確定であったが、身近な存在である「メディア」であれば自分の挑戦したい研究対象が見つかると考え、志望した。

  

2.  授業を通じて

2.1 広告戦略から見る「批判的談話研究」

「研究法演習Ⅰa」で活動を始め、「批判的談話分析」及び「批判的談話研究」に触れる第一歩として、ゼミの担当教員である太田奈名子先生の論文を参照した。論文では、有楽製菓株式会社の販売するチョコレート菓子の「ブラックサンダー」が、日本のバレンタインデーにおける、義理チョコ文化で与える効果についての分析がされている。なお、観点としてキャッチコピーやパッケージデザイン、特別イベントが挙げられていた。

この論文を読んだときに抱いたのは、「私もこのような分析に挑戦してみたい!」という思いだった。元々、ポスターやパンフレット等の、広告や作品とグラフィックデザインに関心があった私にとって、商品に使われるパッケージデザインの分析は、非常に興味のある題材であった。加えて、大手アパレル会社や、化粧品会社で使用されているキャッチコピーなどを調べることが好きな私にとって、言葉を生かした広告戦略の分析は魅力的なものであった。

論文を読み得た知識は、「商品包装や広告にある宣伝文句に対し、自身がどのような認知をしており、どのような行動をとっているのかを考察し分析する方法」である。論文を読んでから、日常的に目にする商品や、購入している商品に対する見方が変わり、「なぜ、自分はこの商品を手に取るのだろうか?」と考えることや、包装に使用されている言語に注目することが増えた。

2.2 お菓子の包装や広告を題材にした実践

 自分で好きなお菓子を選び、その包装に使用されている英語がもつ、販売促進への効果についての考察をした。題材として選んだ菓子は、株式会社明治が2007年に発売した、「Fran Aromatier (アロマティエ)」である。分析では、コンセプトである「鮮やかな香り」と、それを表したシリーズ名の“Aromatier”という単語に注目した。

実際に分析をしてみて、難しいと感じたことは沢山あった。その中でも、特に苦戦した点は、「字数制限内に収めて書くこと」である。文字数の規定は1000字程度であったが、私が書いたものは1449字のものとなり、大幅に超えてしまった。制限字数内に収めきれなかった理由として、「第三者が見ても理解出来るような説明をすること」に意識が向きすぎてしまい、簡潔な説明にするべきところで、長く詳細な説明をしてしまったことが挙げられる。題材の分析に必要なこととして書くべき情報を残し、切り捨てるべき情報を削除する難しさを知った。


3. 現時点で抱く批判的談話研究への印象

現時点で、私にとって批判的談話研究とは、自分が日常的に目にしているものに対する考え方や、見方を変えるものである。物で言うと、掛けると景色ががらりと変わる「眼鏡」に近い。「使用される言語」への着目から、その言語が使用される状況の分析へと広がっていく点が面白い。批判的談話研究は、自分の興味や関心に合っている分野であると感じている。

3.1 興味のあるテーマ

現在、興味があるトピックは、「ポリティカル-コレクトネス」と「表現の自由」の問題である。「ポリティカル-コレクトネス」“Political Correctness”とは、「非差別的な言葉づかい」を意味する言葉であり、特定のグループに属する人々に不快感や不利益を与えない為に、「中立な表現や用語」を用いることを指す。性別や人種、文化などの様々な多様性を認め、差別的な認識を改める考え方の基に生まれた言葉である。

私はポリティカル-コレクトネスの考えを好ましく思っている。しかし近年、ポリティカル-コレクトネスに反していないと思われるアニメや漫画等の表現に指摘が入り、表現の変更を余儀なくされることが増えていると、感じている。

事例として、2020年にアメリカの放送局であるFOXが、「コメディアニメの“The Simpsons” に登場する有色人種のキャラクターに、白人の声優を起用しない方針」を発表した出来事が挙げられる。当時、この出来事を知った私は、「この方針が、有色人種への配慮になっているのだろうか?」という疑問や、「創作物にある、表現の自由を制限することに繋がりかねない」という意見を持った。これらの疑問や意見を見つめ直す為にも、「ポリティカル-コレクトネス」について考えを深めたい。

(2098字)

参考文献

太田奈名子「ブラックサンダー 一目で義理とわかるチョコ」2015,4.

Indeed「キャリアガイド ポリティカルコレクトネス(ポリコレ)とは?意味をわかりやすく解説」〈https://jp.indeed.com/career-advice/career-development/political-correctness?aceid=&gclid=Cj0KCQjw8uOWBhDXARIsAOxKJ2F7x9DTEwoyqtxSZk_b4xh4WRY0GlEK29YUjAGrhA8hBpQwoq3pw0IaAkWIEALw_wcB〉 (最終アクセス 2022年7月21日)

紙屋高雪『不快な表現をやめさせたい!?こわれゆく「思想の自由市場」』,かもがわ出版,2020,(ISBN 9784780310849) 表現の規制について、実際に起きた事件と合わせて考える内容となっている。

香山リカ,北原みのり『フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか「性の商品化」と「表現の自由」を再考する』,イースト・プレス,2017,(ISBN 9784781616124) 「性の商品化」や「性」の表象、を取り扱った内容となっている。

シナン・アラル,夏目大訳『デマの影響力 なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』,ダイヤモンド社,2022,(ISBN 4478104875) 新型コロナウィルス感染症の流行における「デマ」が取り上げられている。

綿野恵太『「差別はいけない」とみんないうけれど。』,平凡社,2019,(ISBN 4582824897)

差別問題について、政治的・社会的・経済的な観点から探る内容となっている。

福田ますみ『ポリコレの正体「多様性尊重」「言葉狩り」の先にあるものは』,方丈社,2021,(ISBN 4908925863) 「多様性尊重」や「言葉狩り」といったものから、「ポリティカル・コレクトネス」について考える内容となっている。

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